スポ少の配車係が大変な本当の理由|車を出すより「調整」がしんどい

目次
日曜の試合に向けて、木曜の夜に配車係がLINEを送る。
「日曜日の車出しについて、明日までに回答をお願いします」
既読はつく。返信も何件か来る。「出せます」「行きだけ可能です」「帰りは乗せてもらいたいです」。ここまでは普通だ。
問題は、そのあとである。
金曜の夜になっても返事のない家庭がある。配車係が個別に連絡する。ようやく返ってきたと思ったら、「まだ予定が分からなくて」。土曜に配車表を作り終える。すると今度は、「すみません、○○ちゃんと同じ車がいいです」「うちは帰りだけ別でお願いします」「兄弟の予定が変わったので、やっぱり車出せません」。
配車表というものは、一度完成すると「完成しました」と言いたくなるが、スポ少ではそこから第二部が始まる。
映画ならエンドロールが流れている時間なのに、配車係だけ続編を上映している。
配車係が大変なのは、車を割り振る仕事だからではない
スポ少の配車係というと、「誰の車に誰を乗せるか決める人」と思われがちだ。だが、実際にしんどいのはそこではない。
車が5台あって、乗る子が何人いるか。その計算だけなら、それほど複雑ではない。電卓すらいらない日もある。
ところが現場では、配車表を作る前に「誰が車を出せるのか」を集めなければならない。返事が来なければ待つ。待っても来なければ聞く。条件が違えば確認する。完成したら送る。送ったあとに変更が来たら、また組み直す。
つまり配車係は、配車をしている時間より、人の返事を待っている時間のほうが長い。
ここが一つ目の理由、Aである。
配車係を疲れさせるのは「作業量」より「未確定のまま待たされる時間」なのだ。
仕事なら締切を過ぎれば「今回は間に合いません」で終わることがある。スポ少ではそうはいかない。「子どもが試合に行けなくなったらかわいそう」というカードが突然テーブルに置かれる。
このカード、強い。
だいたいジョーカーより強い。
その結果、締切を守った十数家庭より、最後まで返事をしなかった一家庭の都合を中心に、配車表がもう一度動き始める。
「返信しない人」より「返信しない人を放っておけない仕組み」が厄介だ
返事が遅い保護者にも事情はある。仕事が終わっていない、兄弟の予定が決まっていない、夫婦で車を使う予定を確認できていない。本当に忙しいこともある。
一方で、「返事をすると車出しを頼まれそうだから、少し様子を見よう」という心理が混ざることもある。
これは別に悪人だからではない。
人は、一度「できます」と言って毎回頼まれるようになると学習する。「早く返事をした人が損するゲームなのでは?」と感じ始めれば、次から返信を遅らせる。
スポ少では、こういう妙な学習が発生する。
協力的な人ほど先に答える。先に答えた人ほど予定に組み込まれる。よく車を出す人ほど「今回もお願いできそう」と思われる。
気づけば、返信の速さが善意ではなく、自分の首を絞める速度になっている。
そして配車係も学習する。「あの人は返事が遅いから、先に個別LINEしておこう」。
こうして、本来なら全員が一回返信すれば済む仕事に、「返信しない人を追いかける仕事」が追加される。
配車係だけ、勝手に秘書業務が増えている。
しかも給料はゼロだ。
ボーナスもない。
あるのは、たまに届く親指スタンプである。
一番疲れるのは、完成した配車表が完成扱いされないことだ
二つ目の理由、Bは「変更」である。
配車表には、数学の問題にはない難しさがある。
数学なら答えを出したあとに、「やっぱりこの7、隣の3と同じ車に乗りたいらしいです」とは言われない。
配車では言われる。
「朝だけ直接行きます」
「帰りは祖父母が迎えに来ます」
「できれば仲のいい子と一緒がいいです」
「その車はちょっと……」
「集合場所を変えられませんか」
もちろん、やむを得ない事情もある。体調、家庭の予定、安全上の問題なら調整すればいい。
問題は、すべての希望が同じ重さで配車係に届くことだ。
お願いする側からすると一件の変更でしかない。しかし担当者から見ると、その一件で座席数が変わり、別の車の人数が変わり、集合方法まで変わることがある。
しかも変更した本人は、自分の一件しか見えていない。
配車係だけが全体を見ている。
ここに、ものすごく地味な温度差がある。
「ちょっと変えてもらうだけ」が、担当者には「全部確認し直す」に変換されるのだ。
作業をしていない人に拒否権があり、作業をする人には決定権がない
三つ目の理由、C。これが一番大きい。
配車係は表を作る。しかし、その表を決める権限は意外なほど弱い。
「この組み合わせでお願いします」と出しても、「うちは難しい」「この形に変えてほしい」と言われれば、また修正する。
つまり、作業責任は配車係にあるのに、最終決定権は全員が持っている状態になる。
これ、会社ならかなり変な組織である。
資料を作る人が十時間かけて完成させたあと、会議に一度も出ていない人が「ここ全部変えません?」と言える仕組みだ。
そして資料を作った人が「はい、分かりました」と直す。
毎週。
そりゃ疲れる。
配車係が限界になる原因は、「車を出さない親がいること」だけではない。むしろ、決める責任を負っている人が、自分では何も決められないことのほうが大きい。
「できる人が、できる範囲で」が一番できる人を壊すことがある
スポ少では、「無理のない範囲で協力しましょう」という言葉がよく似合う。感じもいい。誰も反対しにくい。
ただ、運営に落とし込むと少し話が変わる。
誰ができる人なのか。
誰が無理をしているのか。
それを毎回判断するのは誰なのか。
結局、困っている人を放っておけない保護者が動く。「今回だけ私がやります」「返信ないので聞いておきます」「配車、組み直しておきます」。
この「今回だけ」は、スポ少界ではかなり寿命が長い。
下手をすると卒団まで生きる。
本人も最初は親切心でやっている。ただ、それが続くと周囲からは「この人がやってくれる仕事」に見え始める。
感謝されたいわけではなくても、当たり前のように扱われれば腹は立つ。
負担そのものより、「なぜ私だけが気づいているんだろう」という感覚のほうが人を消耗させる。
配車係を楽にするなら、車の台数ではなく「交渉の回数」を減らす
では、どうするか。
答えは、全員をもっと協力的な人間に育てることではない。
そんな壮大な教育事業を配車係にやらせてはいけない。
変えるべきなのは、締切後も担当者が追いかけ続け、完成後も何度でも変更でき、最後は配車係が全部吸収する流れだ。
まず、回答期限を「お願い」ではなく、配車を組む境界線として扱う。期限までに回答がない場合は、担当者が一人ずつ追いかける前提にしない。あとから参加するなら、空席があれば対応する。難しければ家庭側で送迎を考える。
次に、完成後の変更は「変更してください」で終わらせない。事情があるなら伝えてもらい、可能なら代替案まで出してもらう。「帰りは自分で迎えに行くので外してください」なら処理は早い。「とにかく別の車にしてください」だけでは、担当者にパズルが戻ってくる。
そして最も大事なのが、配車係に一定の決定権を持たせることだ。安全や特別な事情がない限り、確定後はその配車を基本にする。
希望は出せる。
ただし、希望が全部通るわけではない。
この当たり前を共有するだけでも、配車係の仕事はかなり変わる。
LINEを便利に使うほど、配車係の頭の中だけが最新版になる
もう一つ見落とされやすいのが、情報の置き場所だ。
LINEで「車出せます」「やっぱり無理です」「帰りだけ乗ります」と流れてくると、途中から何が最新なのか分からなくなる。
グループLINE、個別LINE、口頭、駐車場での一言。
最終的には配車係の頭の中だけに、完全版が存在する。
人間クラウドである。
しかもバックアップはない。
だから、回答する場所と確定した情報を見る場所は、できるだけ一つにしたほうがいい。LINEは「回答してください」「確定しました」と知らせる場所に寄せ、内容そのものを会話の流れに埋めない。
ClubCoreも、こうした「LINEをさかのぼって担当者だけが全体を把握する状態」を減らすことを考えて作っている。
大事なのは道具の名前ではない。
担当者の記憶力と善意を、チーム運営の仕組みにしないことだ。
配車係の負担を減らす結論は、「いい人を増やす」ではなく「いい人に頼らない」ことだ
スポ少の配車係が大変なのは、Aの返信待ち、Bの終わらない変更、Cの決定権のなさが重なるからだ。
車を出してくれる保護者を一人増やしても、この三つが残っていれば担当者はあまり楽にならない。
逆に、期限を過ぎた人を追いかけなくていい。確定後の変更には条件がある。配車係が決めた内容には一定の効力がある。この三つがそろうと、配車表そのものは驚くほど普通の仕事になる。
次に配車係へ「ちょっと変更お願いできますか」と連絡したくなったとき、一度だけ考えてみるといい。
その「ちょっと」の裏で、何台の車と何人の予定が動くのか。
配車係が欲しいのは、たぶん盛大な感謝祭ではない。
完成した配車表を、本当に完成させてほしいだけなのだ。
あなたのチームではどうですか?
スポ少・少年団・クラブチームで実際にあった出来事や、保護者として感じていることを匿名で教えてください。ClubCoreブログの記事づくりの参考にさせていただく場合があります。
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