新加入のわが子が大事な試合に出て大敗した|ベンチの子の保護者に感じた申し訳なさと、その後の振る舞い方

目次
試合終了のブザーが鳴った。
負けた。
しかも、「惜しかったね」では処理できない負け方だった。「次につながる試合だった」と言ったら、次がどこまで遠いのかGoogleマップで確認したくなるくらい負けた。
わが子は入団したばかりである。それなのに、大事な試合で結構な時間コートに立っていた。
観客席を見る。
ずっとこのチームで頑張ってきた子がベンチにいる。その保護者もいる。普通に拍手している。普通に片づけている。普通に「お疲れさま」と言っている。
怖い。
何もされていないのに怖い。
こういうとき、親の脳内にはなぜか机とマイクが用意される。
「このたび、新規加入から間もない弊社所属選手が重要な公式戦に長時間出場し、その結果、チームが大敗するという事態となりましたことを――」
誰だ、弊社。
そもそも誰も会見を求めていない。
横を見ると相手の保護者は普通に水筒をバッグへ入れているだけなのに、こちらはもう第三者委員会設置の準備まで進んでいる。
「うちの子が出たせいじゃないか」
「ベンチの子の親、どう思ってるんだろう」
「あの子が出ていたらもっと……」
気づけば試合の反省ではなく、自分の子を起用した監督の人事権まで親が背負っている。
しかし、最初に確認したい。
わが子を出したのは、私ではない。
私はベンチ横で選手交代の札を持っていたわけでもない。
ここを忘れると、親は翌週から猛烈におかしな生き物になる。
A 「うちの子が出てすみません」は、気持ちは分かるが少し話がおかしい
ベンチの子を見て申し訳なくなるのは分かる。
長く頑張ってきた子がいる。その親も何年も送迎してきた。冬の体育館で足先の感覚を失い、夏の体育館では自分が蒸し器の中のシューマイなのではないかと思いながら見守ってきた。
そこへ突然、新加入の子がやって来る。
まだ体育館のトイレの場所すら完全には把握していないのに、試合では先にコートへ出る。
そりゃ、気まずい。
「新参者が申し訳ございません」という感情は多少出る。
でも、「うちの子が出ちゃってごめんなさい」は、よく考えるとかなり変だ。
試合に出す選手を決めたのは指導者だからだ。
親が試合前に監督を倉庫へ閉じ込め、スタメン表を書き換えたなら謝ったほうがいい。
それは謝罪案件である。
でも普通は違う。
親は観客席にいる。
せいぜいやっていることは、試合中に「リバウンド!」と叫んでいるくらいである。
しかも本人はリバウンドを取れない。
指導者が見て、考えて、使った。
新加入だろうが、長く所属していようが、その日の試合で必要だと思ったから出した。
そこに親が突然、
「うちの子が枠を一ついただいてしまいまして……」
と現れると、出場時間が高級ホテルの予約枠みたいになってくる。
「先日は45分いただいたので、次回はそちらのお子さまへ返却いたします」
そんな制度はない。
出場時間は保護者間で回す町内会の回覧板ではない。
「前回そちらが12分でしたので、今回は弊宅が8分、残り4分は田中家で」
会計担当が必要になってしまう。
選手起用は指導者が決める。
そこに親同士の貸し借りを持ち込まない。
まずこれでいい。
B 大敗すると、ただの選手起用が「誰かのせい」に見え始める
問題は、大敗である。
勝っていれば話は簡単だ。
「新しい子、よかったね」
「戦力になるね」
「身長あるね」
だいたいこのへんで終わる。
ところが大敗すると、人間は突然、分析能力を獲得する。
試合中は「いけー!」しか言っていなかった保護者が、終了後の駐車場では突然こうなる。
「やっぱり第二クォーターのローテーションかな」
急にNBA。
さっきまで「ナイスー!」しか語彙がなかったのに、車のキーを持った瞬間に戦術家になる。
「あそこで流れ変わったよね」
「今日はいつものメンバーでもよかったかも」
「相手のゾーンに対してね……」
誰だ。
そして新加入側の親も、これに負けずに名探偵になる。
「やっぱりうちの子が出たから?」
いや、知らん。
そもそも大差で負けた試合を、一人の小学生のせいで全部説明できたら、逆にその小学生の影響力がすごい。
世界経済でもそこまで一人に左右されない。
「今日の敗因は新加入の11歳です」
そんなスポーツニュースは見たことがない。
もちろん、起用がうまくいかなかった場面はあるかもしれない。ミスもしたかもしれない。守備で抜かれたかもしれない。
でも、そこから、
「だから出るべきではなかった」
まで行くと話が飛ぶ。
それを言い出すと、シュートを外した子は次からシュート禁止、パスミスした子はボール接触禁止、ファウルした子は体育館出入り禁止になる。
最終的に誰もいなくなる。
体育館だけが残る。
大敗した直後は、とにかく原因を一人にしたくなる。
負けた理由が十個あるより、「あれが悪かった」と一個に決めたほうが脳が楽だからだ。
新加入というのは、目立つ。
しかも大事な試合。
条件はそろっている。
だから親は勝手に、
「うちの子が原因候補ランキング現在1位」
にしてしまう。
誰もランキングを作っていないのに。
ここで親が勝手に出場自粛を始める必要はない。
「次から大事な試合は出ないほうが……」
親にそんな権限はない。
あるなら監督である。
C ではベンチの子の保護者に、どう接すればいいのか
ここで多くの親が考える。
謝ったほうがいいのか。
結論から言えば、普通でいい。
普通に挨拶する。
普通に「お疲れさま」と言う。
普通に帰る。
難易度は高い。
なぜなら親の頭の中では、すでに相手が被害者、自分が加害者みたいになっているからだ。
だからつい、
「ごめんね、なんかうちの子ばっかり出ちゃって……」
と言いたくなる。
でも、これを言われた側は困る。
返事の選択肢が一つしかない。
「そんなことないよ」
これ以外を言ったら大事件になる。
「そうだね。正直、うちの子出てほしかったわ」
正直すぎる。
帰りの駐車場で第二試合開始である。
つまり謝ることで、相手に「あなたは悪くない」という証明書を書かせることになる。
相手の子は試合に出られなかった。
そのうえ親までこちらのメンタルケア担当に就任する。
忙しすぎる。
だから謝らなくていい。
ただし、もっとダメなのは出場自慢である。
「まだ入ったばっかりなのに出してもらって」
ここまではいい。
次が危ない。
「なんか監督に期待されてるみたいで」
やめろ。
その一言だけで、周囲の空気が体育館の床みたいにツルッツルになる。
さらに、
「本人も全然緊張してなくて」
知らん。
ベンチの親からすると、「こちらは緊張する機会すらありませんでした」である。
そして最強なのが、
「まだ入って二週間なんだけどね」
“だけどね”ではない。
その「ね」に何を共有させようとしている。
試合後、自分の子の出場について説明しない。
謝らない。
自慢しない。
非常に簡単だ。
口を普通にしておく。
これが最善である。
本当に気をつけるべきなのは、試合当日より翌週からだ
試合当日は、意外と何も起きない。
みんな疲れている。
負けている。
片づけがある。
子どもは腹が減っている。
保護者は早く帰りたい。
そこで人間関係まで本格的に揉める体力は残っていない。
怖いのは翌週だ。
次の練習で新加入の子がまた主力組にいる。
次の試合でも出る。
監督に名前を呼ばれる回数が増える。
すると新加入側の親も、ちょっと調子が変わることがある。
最初の一週間は、
「まだ何も分からなくて」
と言っていたのに、一か月後には、
「あ、この大会は朝早いですよ」
先輩。
三か月後には、
「この体育館、裏から入ったほうが近いですよ」
施設管理者。
半年後には、
「このチームは昔からね……」
古参。
お前いつからいる。
こうなると危ない。
反対に、「うちの子が出してもらっているから」と恐縮しすぎる親も危ない。
「車、出します」
「荷物、持ちます」
「当番、代わります」
「なんなら体育館建てます」
最後はやりすぎである。
出場時間と親の奉仕を交換し始めると、スポ少は急にポイント制度になる。
配車一回、1ポイント。
当番二回、2ポイント。
大会設営、3ポイント。
10ポイント貯まるとスタメン。
そんな制度なら、上手い子を育てるよりハイエースを買ったほうが早い。
子どもの出場と親の貢献は、切り離したほうがいい。
新加入だから何でも引き受ける必要はない。
試合に出ているから偉くもない。
普通にやる。
この「普通」が、スポ少ではなぜか最難関種目である。
ベンチの子の親が本当にモヤモヤするのは「新加入だから」とは限らない
ベンチ側の親の気持ちも、「新入りが気に食わない」で終わらせると雑すぎる。
子どもがずっと頑張っている。
親もずっと見てきた。
朝早く起きた。
弁当を作った。
送迎した。
雨の日も行った。
寒い体育館にも行った。
夏は体育館で汗をかきすぎて、もはや自分がスポーツドリンクなのではないかという日もあった。
それでも子どもはベンチ。
そこへ新加入の子が来て、すぐ試合に出る。
頭では分かる。
実力かもしれない。
ポジションかもしれない。
チーム事情かもしれない。
でも心はExcelではない。
「はい、合理的です」とセルに入力したら納得するようにはできていない。
「うちの子も頑張ってるのにな」
くらいは思う。
当然だ。
だから新加入側が「実力だから仕方ないでしょ」という態度をすると、そりゃ感じは悪い。
一方で、
「長くいるんだから出すべき」
まで行くと、それも違う。
それなら試合前に出場時間を勤続年数で計算することになる。
在籍三年、24分。
在籍二年、16分。
新加入、ウォーミングアップのみ。
もはやスポーツではなく退職金制度だ。
競技である以上、今使いたい選手が使われる。
その判断に納得できないなら、話の相手は新加入の親ではなく指導者になる。
ここを親同士で処理し始めると、本来監督が背負うべき選手起用の説明責任を、なぜか観客席で分担することになる。
監督だけノーダメージである。
ずるい。
子どもには「申し訳なさ」を背負わせない
親が気まずい。
これは仕方ない。
しかし、それを子どもに輸送してはいけない。
「お前、新しく入ったのに出してもらったんだから、○○君に悪いと思わないと」
言われた子は困る。
「え、試合に出たら謝るゲームだったの?」
となる。
監督からは「積極的に行け」と言われ、親からは「出たことに恐縮しろ」と言われる。
子どもだけ指示が矛盾している。
会社で言えば、
「もっと売上を作れ」
「でも他の社員より売ったら申し訳なく思え」
無理である。
そんな会社は半年で辞める。
試合に出たなら、子どもにはプレーの話をすればいい。
「今日ここ良かったな」
「ここは次こうしよう」
「出してもらったんだから次の練習もしっかりやろう」
それでいい。
大敗したからといって、
「お前が入った瞬間から点差が開いたな」
みたいな実況を家庭で再放送する必要はない。
本人が一番分かっている可能性がある。
親までハイライト映像に副音声を付けなくていい。
そもそも一人でチームを大敗させられるなら、それはそれで相当な才能である。
逆方向のMVPだ。
親が返せるものがあるとすれば、出場時間ではなく態度だ
新加入の家庭が何も考えなくていいわけではない。
ただ、返すものを間違えないことだ。
出場時間は返せない。
「先週うちの子が長く出たので、今週はベンチに座らせておきます」
レンタカーではない。
代わりに、態度は整えられる。
自分の子が出ているときだけ急に声量が三倍にならない。
他の子がシュートを決めても拍手する。
ベンチの子が出たときも見る。
自分の子の得点数を、聞かれていないのに発表しない。
試合後の保護者会話を個人スタッツ報告会にしない。
「今日12点だったんですよ」
「あ、そうなんだ」
ここで終わっているのに、
「前半8点で、後半4点で」
追加説明に入らない。
聞いていない。
さらに、
「リバウンドも結構取ってて」
もうやめろ。
Box Scoreを配るな。
あと、子どもが試合に出るようになった途端、親の姿勢が変わるのも分かりやすい。
入団初日。
「よろしくお願いします」
一か月後。
「お疲れさまでーす」
三か月後。
腕組み。
半年後。
コートを見る角度が監督と同じ。
最終形態。
「あそこ、もっと走らせたほうがいいんだけどな」
誰なんだ。
ユニフォームを着ているのは子どもなのに、親の肩書きだけ勝手に「技術顧問」へ昇格していく。
これをやらなければかなり安全である。
逆に恐縮しすぎて、ずっと体育館の壁と同化する必要もない。
「うち新入りなんで……」
と言い続けて一年後も新入りだったら、それはもう新入りではない。
ただの人見知りだ。
結局、申し訳なさを消す方法は「謝ること」ではない
新加入のわが子が大事な試合に出た。
大敗した。
ベンチの子がいる。
その親がいる。
申し訳ない。
ここまでは普通である。
でも、そこから親が勝手に記者会見を開き、責任を認め、減給処分を発表し、翌週から配車を全部引き受ける必要はない。
A。
選手を出したのは指導者である。
親がスタメン表を偽造していない限り、謝罪案件ではない。
B。
大敗したからといって、敗因を新加入の子一人へ宅配便で送りつけない。
チームスポーツである。
送料無料でも受取拒否でいい。
C。
翌週から普通にする。
自慢しない。
恐縮しすぎない。
「期待されてるみたいで」と余計な一言を足さない。
保護者同士の関係で一番危険なのは、悪意より「一言多い」である。
そして、ベンチの子が次に試合へ出たら普通に拍手する。
これでいい。
なぜなら、今コートにいる自分の子が、一か月後もそこにいる保証などないからだ。
次の大会。
監督が選手交代を告げる。
わが子の名前が呼ばれない。
ベンチに座っている。
その瞬間、観客席から誰かが普通に拍手してくれる。
たぶんそのとき分かる。
「ああ、あのとき謝らなくてよかったんだな」と。
そして同時に、
「うちの子、今日全然出ねえな」
とも思う。
親とは、そういうものである。
あなたのチームではどうですか?
スポ少・少年団・クラブチームで実際にあった出来事や、保護者として感じていることを匿名で教えてください。ClubCoreブログの記事づくりの参考にさせていただく場合があります。
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