「今日は何点取った?」と毎回聞く親が、知らないうちに子どもを追い込む理由

「今日は何点取った?」と毎回聞く親が、知らないうちに子どもを追い込む理由

試合が終わる。

子どもが体育館から出てくる。汗だくである。髪の毛はシャワーを浴びた人というより、シャワーそのものになっている。ユニフォームは汗で重量が1.4倍くらいありそうだし、本人は朝から走り回ってもう電池残量3%である。

そこへ親が近づく。

「今日は何点取った?」

早い。

まだ体育館の自動ドアすら閉まっていない。

子どもが「6点」と答える。

「6点かあ」

この「かあ」が難しい。

「6点も取ったのかあ」なのか、「6点しか取ってないのかあ」なのか、「夕飯何にしようかなあ」の「かあ」が混ざっているのか、発言した本人にも分からない。

しかし子どもは分析する。

今日の「かあ」は低音だった。

しかも母親が一瞬だけ前を見た。

これは失望指数68。

小学生なのに、親の声色を日経平均みたいに分析し始める。

そんな能力があるなら国語の「登場人物の気持ちを答えなさい」で満点を取ってほしい。

問題は一度聞くことではない。

毎試合、毎回、第一声がこれになることである。

「今日どうだった?」

ではない。

「楽しかった?」

でもない。

「怪我なかった?」

でもない。

「何点?」

もはや帰りの車が会計監査である。

理由A 「何点取った?」を繰り返すと、点数が親への報告書になる

親が点数を聞きたくなる気持ちは分かる。

数字は楽なのだ。

「今日は守備で相手の進行方向を限定しながらヘルプに入って……」

と言われても、バスケ未経験のお父さんは途中から「ヘルプって誰を助けたんだ?」となる。

でも「8点」と言われれば分かる。

8。

数字である。

算数なら小学1年生でも分かる。

だからつい聞く。

「何点?」

すると子どもも学習する。

ああ、我が家ではこれが評価基準なのだ、と。

8点なら営業成績良好。

12点なら臨時ボーナスの空気。

2点なら帰宅途中にやや静寂。

0点なら後部座席で窓の外を見ながら「今日は夕日がきれいだな」と現実逃避。

完全に小学生株式会社である。

しかも親が代表取締役で、本人は営業部員である。

試合中、本当はいろいろやっている。

相手のエースを守った。

リバウンドを取った。

いいパスを出した。

ルーズボールに飛び込んだ。

声を出した。

仲間を励ました。

でも車に乗った瞬間、聞かれるのは一つ。

「で、何点?」

全部カット。

スポーツ番組を2時間見たあと、最後に「視聴率は?」だけ聞くテレビ局の偉い人みたいになっている。

子どもからしたら、「俺、今日それ以外もやってたんだけど」である。

しかし親は悪気ゼロ。

むしろ興味津々。

そこがまたややこしい。

善意100%でプレッシャーを製造できる。

家庭用プレッシャー製造機。

電源不要。

毎試合使用可能。

理由B 点数を聞かれ続けると、「点を取らない日は話すことがない」と感じ始める

ある試合。

子どもは2点しか取れなかった。

ただし本人の中では、かなりいい試合だった。

いつも抜かれていた相手を一回きれいに止めた。

いいパスも出した。

コーチにも一言褒められた。

本人としては、帰りの車でちょっと話したい。

「今日さあ……」

と言いかけた瞬間。

親。

「今日何点?」

早い。

質問の出足だけ日本代表クラスである。

「2点」

「え、2点だけ?」

終了。

子どもの頭の中にあった「今日さあ」の続きが、静かにゴミ箱へ移動する。

完全削除しますか?

はい。

本当は、

「あの相手止めたんだよ」

「最後いいパス出した」

「コーチにも褒められた」

と話したかった。

だが第一声で「2点だけ?」と言われると、もう面倒である。

そこから「いや、今日は得点以外の部分でチームに貢献しておりまして」と説明する小学生はいない。

それができるなら、その子はもうスポーツ推薦ではなく商社に推薦したほうがいい。

結果、返事はこうなる。

「別に」

親は帰宅して夫婦で言う。

「最近、試合のこと全然話してくれないね」

いや、会話の入口に関所を作ったのはそっちである。

通行手形が「10点以上」になっている。

点を取った日は話せる。

取れなかった日は話しにくい。

そうなると子どもの中で、スポーツの話と得点がセットになる。

0点の日は「今日は特にありません」。

完全に記者会見である。

理由C 試合中に相手より先に「親の顔」と戦い始める

さらに進むと、子どもは試合中に点数を意識し始める。

まあ競技だから、得点を意識すること自体は普通である。

問題は、

「点を取りたい」

ではなく、

「点を取らないと帰りの車が面倒だ」

になったときだ。

これ、競技目的が変わっている。

公式ルールには書いていない。

「勝敗のほか、帰宅時の親の機嫌を考慮すること」

そんな競技規則はない。

でも本人の頭にはある。

試合中、シュートを外す。

一瞬、観客席を見る。

親の顔を確認する。

これで相手チーム5人に加えて、観客席のお父さんまでディフェンス参加である。

6対5。

しかもお父さんはコート外なのでファウルも取られない。

最強である。

親は普通に座っているだけかもしれない。

ポカリ飲んでるだけかもしれない。

隣のお父さんと「今日寒いっすね」と話しているだけかもしれない。

なのに子ども側では、

「今の外したの見られた」

となる。

親、何もしていないのにラスボス化。

しかも本人はラスボスになった自覚がない。

帰宅後、

「もっと思い切ってやればいいのに」

と言う。

いや、その思い切りを試合中ずっと客席から吸い取っていた可能性がある。

掃除機みたいに。

逆に「点を取らなきゃ」が強くなると、今度は無理なシュートが増える。

味方が空いている。

でも行く。

相手が二人いる。

でも行く。

リングまで遠い。

でも行く。

親への業績報告があるから。

もはやオフェンスではない。

月末のノルマ達成である。

問題なのは「点数を聞くこと」ではなく、点数しか聞かないことだ

ここまで読むと、

「じゃあ、もう一生点数聞いちゃダメなの?」

となる親がいる。

極端である。

昨日まで毎回聞いていたのに、今日から急に、

「君が今日コートで感じた内面的変化について聞かせてくれないか」

とか言い始めたら、子どものほうが怖い。

「お父さん、どっかで研修受けた?」

となる。

普通に聞いていい。

「何点取った?」

「8点」

「おお、やったじゃん」

これで終わるならただの会話である。

問題は、毎回これしかないことだ。

「何点?」

「何本入れた?」

「何分出た?」

「スタメン?」

「○○君は何点?」

そこまで行くとスポーツ観戦ではない。

競合他社分析である。

「○○君は15点だったらしい」

「へえ」

「最近あの子伸びてるね」

「……」

いらん。

帰りの車でベンチマーク分析を始めるな。

そのうち、

「○○君は前年同期比125%だって」

とか言い始める。

誰が前年同期だ。

子どもは、親が何を聞くかをちゃんと見ている。

得点を毎回聞けば、

「うちは得点重視なんだな」

となる。

「今日何が面白かった?」

を聞けば、

「あ、そこ話していいんだ」

となる。

親の質問というのは、本人が思っているより影響がある。

質問はただの会話ではない。

子どもに渡す「今日の注目ポイント」である。

毎回「何点?」なら、注目ポイントはスコア。

毎回「今日一番笑ったの何?」なら、急に試合よりベンチの珍事件ばかり詳しくなる可能性もある。

それはそれで困る。

試合後に最初に聞くなら、「何点?」より使える質問がある

では何を聞くのか。

難しく考える必要はない。

「今日、自分で一番よかったと思うプレー何?」

これでいい。

急に教育評論家みたいにならなくていい。

「今日の自己効力感について……」

とか言う必要はない。

子どもが逃げる。

普通に聞けばいい。

すると返ってくる。

「最後のパス」

「リバウンド」

「あいつ止めたやつ」

「何もない」

何もない日もある。

ある。

人間だから。

毎回感動的な成長ストーリーが発生するなら、スポ少はNetflixに売れる。

「今日は全然ダメだった」

と言う日もある。

そこで親は待ってましたとばかりにコーチへ変身しないほうがいい。

「何がダメだった?」

「じゃあ次どうする?」

「もっと周り見なきゃ」

「切り替えが遅い」

「声が出てない」

車に乗っただけなのにコーチが一人増える。

運転手、保護者、解説者、技術指導員。

一人四役。

しかも全部無給。

大変すぎる。

もう一つ使いやすいのは、

「今日、一番面白かったの何?」

である。

これなら点数以外の話が出やすい。

「あいつがボール顔に当てた」

「コーチが靴左右逆だった」

「審判がめっちゃ声でかかった」

スポーツの成長とは何の関係もない話が返ってくる場合もある。

だが会話は続く。

それでいい。

親子の会話なのだから、毎回スポーツドキュメンタリーにしなくていい。

もちろん、

「別に」

もある。

小学生男子の「別に」は強い。

質問、感情、会話意欲、全部を一撃で消す。

格闘ゲームなら即修正パッチが入るレベルで強い。

そこはもう諦める。

親が本当に知りたいのは、点数ではなく「うちの子、ちゃんと成長してる?」だったりする

そもそも親が何点取ったか聞くのは、得点マニアだからとは限らない。

心配なのだ。

最近あまり出てない。

シュート入ってない。

周りの子が上手くなってる。

自分の子は家でゲームしてる。

昨日もYouTube見てた。

大丈夫か。

親の脳内では不安会議が開かれている。

議題。

「うちの子、このままでいいのか」

でも成長は見えにくい。

だから一番簡単な数字を見る。

10点。

安心。

2点。

不安。

0点。

緊急役員会。

だがスポーツは、そんなに親切な採点表ではない。

0点でもめちゃくちゃ良い試合はある。

12点取っていても、「今日それでええんか?」という日もある。

それを全部得点だけで判断すると、

12点=良い。

0点=悪い。

スポーツが小学2年生の算数になる。

しかも算数としても雑である。

親は「成長してるかな」と思っているだけなのに、気づけば毎週スコアを確認して一喜一憂する。

もはやスポ少ではない。

投資信託である。

今週は上がった。

来週は下がった。

長期保有してください。

点数より、「前と何が変わったか」を見たほうが親も楽になる

一番しんどいのが他人との比較である。

○○君は15点。

うちは4点。

○○君はスタメン。

うちはベンチ。

○○君はドリブル速い。

うちはドリブルするたびに親が息を止める。

「取られるなよ……取られるなよ……」

親が一番ボールを怖がっている。

これを毎週やると忙しい。

チーム全員が比較対象になる。

試合相手まで比較対象になる。

そのうち小学6年生を見ながら、

「あの子、体幹すごいな」

とか言い始める。

休日に何を分析しているんだ。

比べるなら、前回の本人でいい。

先月はボールを持った瞬間に下を向いていた。

今日は一回顔を上げた。

前は相手が来たら即パスしていた。

今日は一回抜こうとした。

前はリバウンドを眺めていた。

今日は一歩入った。

それで十分である。

親が、

「今日最後のリバウンド取りに行ってたな」

と言う。

子どもはたぶん、

「うん」

くらいしか言わない。

感動して抱きついてくるわけではない。

そこは期待しないほうがいい。

しかし内心では、

「見てたんだ」

となる。

たぶん。

少なくとも、

「何点?」

よりは「見てた感」がある。

スコアは途中から来た親でも聞ける。

でも本人の変化は、ちゃんと見ていないと気づかない。

親がわざわざ休日を体育館で過ごした価値は、こっちにある。

朝7時集合までしたのだ。

点数くらい公式記録に任せろ。

せっかくならもっと見るところがある。

「今日は何点取った?」をやめなくていい。ただし、一番目の質問から降格させる

結局、解決策はものすごく地味である。

「今日は何点取った?」

を禁止しなくていい。

ただし一番打者から外す。

それだけだ。

今まで一番打者「何点?」

二番打者「何分出た?」

三番打者「○○君は?」

という恐怖の上位打線だった家庭は、とりあえず打順変更である。

一番。

「今日どうだった?」

二番。

「自分で一番良かったの何?」

三番。

「楽しかった?」

そして七番くらいに、

「そういや何点だった?」

これなら点数もただの試合情報になる。

四番に置かなくていい。

毎試合ホームランを要求しなくていい。

親がやることはこれだけである。

コーチング理論を勉強しなくていい。

スポーツ心理学の本を12冊買わなくていい。

資格もいらない。

会費もいらない。

新しいアプリもいらない。

ただ、口から

「今日何点――」

まで出たところで、

「あ、違う」

と飲み込む。

若干不自然になる。

子どもからしたら、

「何?」

となる。

そこで普通に、

「いや、今日どうだった?」

と聞けばいい。

そして子どもが、

「別に普通」

と言ったら、

「そっか」

で終了。

親の改革初日、会話7秒。

それでいい。

いきなり感動の親子ドキュメンタリーは始まらない。

でも次の試合も同じように聞く。

その次も聞く。

すると、ある日突然、

「今日さあ、最後のパス見た?」

くらいは出てくるかもしれない。

そのとき親は、

「見た見た。よかったな」

と言えばいい。

そこで、

「で、何点?」

と0.4秒で戻ったら全部台無しである。

我慢しろ。

点数は逃げない。

子どもの「今日さあ」は、わりとすぐ逃げる。

あなたのチームではどうですか?

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