スポ少のお茶当番を廃止できない理由|名前を消しても仕事が残るチームの共通点

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「来年度から、お茶当番は廃止します」。保護者会でそう発表されると、空気が少しだけ明るくなる。冬の朝に大きなポットを抱え、紙コップを数え、監督の好みまで気にする仕事から解放される。拍手までは起きなくても、心の中では全員が小さくガッツポーズをしている。
ところが新年度が始まると、「飲み物は各自持参ですが、念のため予備の水をお願いします」「コーチ用だけ準備できる方はいますか」「試合の日は救護セットと氷も必要です」と連絡が来る。お茶当番という名前は消えたのに、荷物と気遣いだけが元気に生き残っている。妖怪よりしぶとい。
お茶当番で本当に負担なのは、お茶を入れることではない
お茶当番と聞くと、飲み物を用意して配るだけの単純作業に見える。だが現場では、ポット、紙コップ、予備の飲料、氷、タオル、救護用品、ゴミ袋などが一つの役割に束ねられていることが多い。さらに「監督が飲みたいタイミングを察する」「足りなくなる前に補充する」「使った備品を洗って次の家庭へ渡す」といった、手順書に載らない気遣いまで付いてくる。
厄介なのは、作業時間より拘束時間である。練習開始前に来て、終わるまで帰れない。自分の子が休みでも当番だけは来る、下の子を連れていてもポットから目を離せない、試合を見たいのに裏でカップを洗っている。紙コップ一つは軽いが、「失敗すると気が利かない親と思われる」という空気が乗ると急に重くなる。
しかも、負担の感じ方には家庭差がある。土日が休みの家庭には「月に一度くらい」に見えても、シフト勤務、ひとり親、乳幼児がいる家庭には、その一度を空けること自体が難しい。全員同じ回数なら公平だと考えがちだが、回数が同じでも負担は同じではない。ここを無視すると、当番表だけは美しく、保護者関係はじわじわ濁る。
廃止に反対する人が守っているのは、お茶ではなく安心感
「昔からやってきた」「指導者に失礼ではないか」「何かあったとき困る」。お茶当番の廃止案には、こうした反対が出やすい。これを古い考えだと切り捨てると話はこじれる。反対する人の多くは、お茶そのものを愛しているわけではない。誰かが周囲を見ている状態や、事故なく練習が回る安心感を守ろうとしている。
長く役員を務めた人ほど、「なくして問題が起きたら自分の責任」と感じやすい。逆に、当番をほとんど経験していない人が勢いよく「全部いらない」と言うと、現場を知らない人の改革に見える。負担を減らしたい側と、混乱を避けたい側。目的は対立していないのに、話し方を間違えると「楽をしたい親」と「古参の支配」に分かれてしまう。
もう一つ、当番が保護者の参加度を測る物差しになっている場合もある。よく来る人は協力的、断る人は温度が低い、と無意識に分類されるのだ。その物差しを失うことへの不安が、廃止反対として現れる。ここを認めずに制度だけ変えると、今度は別の仕事への参加回数で新しい序列が作られる。
「廃止します」だけでは、仕事は別名で復活する
お茶当番をなくすときに最も多い失敗は、役職名だけを消すことである。お茶当番が担っていた仕事を分解しないまま廃止すると、必要な作業が練習当日のLINEに流れてくる。「今日、氷を持って来られる方」「ポットお願いできますか」。結局、すぐ返信する人、断れない人、代表と仲のよい人に仕事が寄る。
輪番制には少なくとも順番が見える。ところが善意の募集に変えると、負担は見えにくくなる。毎回同じ三人が反応していても、「自主的にやってくれている」で処理されるからだ。廃止前より不公平なのに、制度がないため不満を言う相手もいない。これは廃止ではなく、当番の野良化である。
まず必要なのは、「お茶当番」という箱の中身を書き出すことだ。飲み物、氷、救護用品、備品の鍵、出欠確認、会場準備、ゴミ処理、指導者対応。チームによって中身は違う。この一覧がないまま賛成・反対を議論しても、片方は飲み物の話をし、もう片方は安全管理の話をしているので、永遠に噛み合わない。
仕事を「廃止・各自・担当」に三分すると揉めにくい
棚卸しをしたら、作業を三つに分ける。第一は、習慣で続いているだけなら廃止する仕事。指導者への飲み物提供、全員分の紙コップ準備、過剰な予備飲料などは、本当に必要か指導者本人も交えて確認する。「監督が望んでいるはず」と保護者だけで忖度を増築しているケースは珍しくない。
第二は、各家庭で完結させる仕事である。選手と保護者の飲み物、タオル、通常の暑さ寒さ対策は、原則として各自持参にできる。忘れ物対策まで一人の当番が背負うと、持って来ない側より準備する側が疲れる仕組みになる。ただし低学年では、持ち物一覧を明確にし、子ども自身が確認できる形にしたほうが移行しやすい。
第三は、チームとして残す担当である。救護用品の管理、緊急時の連絡、施設の鍵など、安全や運営上どうしても必要なものは「お茶当番」に隠さず、仕事名と責任範囲を明確にする。一人に全部載せず、「救護セットは役員が月ごとに確認」「会場の鍵は代表」「氷は必要な大会だけ募集」のように分ければ、毎週の長時間拘束を減らせる。
決めた内容は口頭だけで終わらせない。「各自持参」「チーム備品」「担当者」「忘れた場合の対応」を一枚にまとめ、全員が同じ場所で確認できるようにする。ClubCoreのように予定、持ち物、担当を一か所に整理できれば、前日のLINEで毎回ゼロから確認する作業は減らせる。ただし、ツールを入れる前に何をやめるかを決めなければ、面倒な仕事がきれいな画面に引っ越すだけである。
反対意見を潰すより、まず一か月だけ試す
一度で永久廃止を決めようとすると、「もし困ったら」が強くなる。そこで、一か月の試行期間を設ける。飲み物は各自持参、指導者も自分で用意、救護用品は会場に固定、当日の担当者は置かない。問題が起きたら、その出来事だけを記録する。
試行後の話し合いでは、「不安だった」ではなく「実際に何が足りなかったか」を見る。誰かが水筒を忘れたなら、全員分のお茶当番を復活させるのではなく、予備の未開封飲料を数本置けば済むかもしれない。氷が必要だったなら、大会日だけ担当を決めればよい。例外一件のために、毎週全員を拘束する制度へ戻さないことが肝心だ。
廃止を提案する側も、言い方には注意したい。「こんな無駄なこと、まだやっているんですか」では、これまで担ってきた人の努力まで無駄だと言ったように聞こえる。「今まで回してくれた人が大変だったから、必要な仕事だけ残したい」と伝えるほうが通りやすい。改革は正論の強さより、古参の顔を潰さない設計で進むことが多い。
お茶当番をなくす目的は、親をチームから遠ざけることではない
当番をなくすと保護者の交流が減る、という心配もある。だが、交流を残したいなら、重いポットを運ばせる必要はない。試合の応援、会場準備、短時間のイベントなど、参加の形は選べる。義務として長時間拘束されることと、自分の都合で関わることはまったく違う。
お茶当番を廃止できるチームは、保護者の協力を軽視しているのではない。協力を「断れない善意」に依存させず、必要な仕事を必要な量だけ分けている。名前を消すだけでは足りない。仕事を見える化し、捨てるものを決め、残すものの責任を小さく切る。そこで初めて、ポットだけでなく、保護者の胸のつかえも下ろせるのである。
あなたのチームではどうですか?
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