上手い子が下手な子にイライラし始めたら、親はどうする?「仲良くしなさい」では解決しない理由

上手い子が下手な子にイライラし始めたら、親はどうする?「仲良くしなさい」では解決しない理由

土曜日の午後。味方がパスを取り損ね、そのまま相手ボールになった瞬間、上手い子が両手を広げる。「いやいやいや、どういうこと?」という顔である。もちろんビデオ判定なんてない。そもそも小学生の試合なので、判定を見直す前に、得点板のお父さんが自分の子のシュートを見逃している。

次の攻撃では、さっきミスした子が完全に空いている。それでもパスを出さない。ものすごく空いている。休日なのに誰も来なかった町内会の清掃説明会くらい空いている。それでも出さない。どうやらパスコースではなく、人間関係のほうが通行止めになったらしい。

練習が終わって車に乗った途端、「もうあいつと同じチーム嫌だ」と始まる。親はハンドルを握りながら、「はい、本日の本編が始まりました」と思う。つい10分前まで体育館で「ありがとうございましたー!」と爽やかに挨拶していた人間が、車のドアが閉まった瞬間に内部告発者になる。スポ少の帰りの車内では、体育館にいる時の三倍くらい本音が出る。

ここで親が「そんなこと言っちゃダメ。みんな仲間でしょ」と言えば、一応それっぽい。教育番組なら、この辺で爽やかな音楽が流れる。しかし翌週、その子が突然「仲間とは互いを認め、高め合う存在なんだ」と悟りを開く可能性は低い。そんな小学生がいたら、バスケやサッカーより先に人生相談を始めたほうがいい。

親が見るべきなのは三つある。A「何にイライラしているのか」、B「そのイライラをどんな行動に変えているのか」、C「一時的な怒りなのか、チーム内の序列になっているのか」だ。ここを全部まとめて「仲良くしなさい」で処理するのは、家の雨漏りを「床をこまめに拭こう」で解決しようとするのと同じである。床はきれいになる。屋根はずっと壊れたままだ。

A 「下手な子が嫌い」ではなく、自分だけ本気に見えることに腹が立っている

上手くなってくると、今まで見えなかったものが見える。「そこに走れよ」「今戻れよ」「そこパスだろ」。本人の中ではプレーが二手、三手先まで進んでいるのに、味方はまだ一手目で靴ひもを結び直している。この時、上手い子の頭の中には突然、小さな監督が現れる。頼んでもいないのに腕を組み、「そこじゃないんだよなあ」と評論を始める。

大人でも同じである。職場でパソコンが得意な人に「コピーってどうやるんでしたっけ?」を午前、午後、夕方と三回聞けば、三回目には「大丈夫ですよ」と言いながら目だけが大丈夫ではなくなる。スポ少でも、技術差が広がると「なんでそれができないの?」が発生する。本人にとって簡単になったことほど、できない側が不思議に見える。

さらに本人が家でも練習していると、話は少し複雑になる。毎日ボールを触り、試合で負ければ悔しがり、自分なりに上手くなろうとしている。その横でチームメイトがコーチの説明中に砂で山を作っていたり、体育館の床に寝転がって「疲れたー」と言っていたりすると、「なんで俺だけ真面目にやってるんだ」となる。しかも砂山が立派だと、余計に腹が立つ。そこに本気を出すんじゃない。

だから親が最初から「下手な子にも優しくしなさい」と言うと、本人には「お前の努力の話は一旦置いておいて、今日から笑顔担当をお願いします」と聞こえることがある。本人は選手として不満を言っているのに、急に接客係に配置転換される。しかも給料はない。

ここでは「何が一番腹立った?」と聞いたほうが早い。「ミスしたこと?」「ふざけていたこと?」「負けたこと?」「同じことを何度言われても直さなかったこと?」。聞いてみると、「下手だからムカつく」と言っていたのに、実際は「ミスしたあと笑ってたのが嫌だった」ということもある。そうなると問題は実力差ではなく温度差だ。容疑者を追いかけていたら、開始20分で別人だったような話である。

一方で、本当に「下手なやつにはパスを出したくない」「俺より下手なんだから黙ってろ」という話なら、そこは止める。それは向上心ではない。本人はエースへの階段を上っているつもりかもしれないが、途中から「ただ感じの悪い人への階段」に接続している。親としては、看板が見えているうちに引き返させたほうがいい。

B イライラするのは自由でも、ため息・無視・パスを出さないは別問題だ

ここで親がやることは、「感情」と「行動」を分けることだ。腹が立つこと自体は仕方ない。人間なので、味方が同じミスを繰り返せば「またかよ」と思うこともある。親だって家を出る5分前に子どもから「今日ユニフォームいる」と言われれば、愛情とは別の感情がものすごい勢いでアップを始める。

しかし、腹が立ったから好きに振る舞っていいわけではない。ミスするたびに盛大なため息をつく、目を合わせない、「お前には無理」と言う、完全に空いているのにパスを出さない。この辺まで来ると、「勝ちたい気持ちが強い」で包むのは無理がある。どれだけ立派な包装紙を巻いても、中から出てくるのは感じの悪い態度である。

親が言うなら、「イライラするのは分かる。でも、そのイライラで味方をもっと下手にするな」でいい。怒られるのが怖くなれば、下手な子は積極的に動かなくなる。シュートを打たなくなる。ボールが来た瞬間、熱い鍋でも渡されたように上手い子へ返す。「はいはい、これはあなたの物ですね」と、ボールの即日返品が始まる。

「仲間を大切にしなさい」では、明日の練習で何をすれば合格なのか分からない。それより「ミスした時にため息をつかない」「わざとパスを外さない」「失敗した相手の人格まで否定しない」のほうが具体的だ。道徳の教科書を一冊読み上げるより、禁止事項を三つ決めたほうがたぶん早い。子どもは講演会を聞きたいわけではない。

ただし、試合中の「戻れ!」「走れ!」「そこ行け!」まで禁止する必要はない。スポーツなので、全員が「恐れ入りますが、可能でしたら右側へ走っていただけますか」と話していたら、その間に相手がゴールしている。強い声と、人を傷つける声は同じではない。

違いは、その言葉が次のプレーを良くするためなのか、相手を罰するためなのかだ。「次、右走って」はプレーの話。「だからお前はダメなんだよ」は人間の話である。ボールを追いかけていたはずなのに途中から人格査定が始まったら、もう別の競技になっている。

実力差より怖いのは「上手い子だから許される」が始まることだ

本当に危ないのは、上手い子が怒ることそのものではない。「あの子は上手いから仕方ない」が周囲に定着することだ。点を取る。試合を決める。チームを勝たせる。すると多少きつい言い方をしても、なぜか競技能力だけでなく人格まで割引対象になる。「本日エースにつき、多少の暴言は二割引です」みたいな謎のセールが始まる。

試合で活躍する子が「ちゃんとやれよ」と言えば、「勝ちたいんだね」と受け取られる。まだうまくできない子が同じことを言えば、「ちょっと偉そうじゃない?」となる。言っている内容は同じなのに、プレーの上手さによって字幕が変わる。体育館には、ときどき見えない同時通訳がいる。

指導者側にも難しさはある。主力だから試合には必要だし、本人の勝ちたい気持ちも分かる。保護者側も「あの子のおかげで勝っているし」と注意しづらくなる。本人だって子どもだから、当然そこを学習する。「あれ? 俺、これくらいなら怒られないんだ」となる。子どもは九九を覚えるのには時間がかかるのに、自分に都合のいいルールだけは一回で覚える。

こうして「上手い子は怒る側、下手な子は怒られる側」という小さな序列ができる。チーム内で「プレーが上手い人=身分が高い人」という謎の制度が完成する。体育館に来たはずなのに、気づいたら殿様と家来がいる。月謝を払っているのに、なぜか江戸時代まで体験できる。

だから親は、「上手いこと」と「偉いこと」を分けておく。シュートが入る。足が速い。守備がうまい。それは競技能力だ。人を雑に扱える免許証ではない。そんな免許があるなら、更新講習で全員不合格にしてほしい。

逆に言えば、上手い子ほど周囲への影響が大きくなる。上手い子が一回「ナイス」と言えば、下手な子は意外と覚えている。上手い子が一回「はぁ?」と言えば、それもまたよく覚えている。エースになると、知らない間に発言へ拡声器がつく。本人だけ説明書を渡されていないので、そこは大人が教えるしかない。

C 親が出るべきなのは「一度怒った時」ではなく、序列が固定され始めた時だ

では、どこで親が出るのか。一回「何やってんだよ」と言った。試合後に「あいつ下手すぎ」と愚痴った。家で文句を言った。このくらいなら、まず親子で話せばいい。スポーツをやっている子から怒りを完全に取り除こうとすると、最終的に出来上がるのは選手ではなく菩薩である。試合中ずっと穏やかに微笑んでいても、監督はたぶん困る。

見るべきなのは、同じ子が毎回ターゲットになっているかどうかだ。その子にはパスを出さない。その子が同じ組に入ると露骨に嫌な顔をする。その子のミスだけ笑う。「あいつが入ると負ける」と何度も言う。ここまで来ると、一回のイライラではなく「怒る人」と「怒られる人」の役割分担が完成し始めている。

厄介なのは、外から見ると普通に練習が進んでいることだ。コーチが笛を吹けば集合する。「ありがとうございました」と挨拶もする。集合写真では全員ピースしている。写真だけ見れば世界平和が実現しているが、その10分前には「お前に出しても取れないから」と言われていたりする。集合写真の平和維持能力はかなり高い。

下手な子は次第に、「上手くやろう」ではなく「失敗しないようにしよう」と考え始める。ボールが来たらすぐ返す。シュートできても打たない。抜けそうでも止まる。つまり怒られないために何もしなくなる。すると上手い子が「もっと積極的に行けよ」と怒る。いや、その積極性、さっき自分で消火器を持ってきて消していた。

ここまで来たら、子どもだけに任せる理由は薄い。ただし、相手の親へいきなり「お宅のお子さん、うちの子にパスを出してませんよね?」と突撃すると、新しい競技が始まる。競技名は「保護者同士の全面対決」。ボールは使わないのに、なぜか全員ものすごく疲れる。

まず指導者へ、人格ではなく行動を伝える。「特定の子にだけパスを出さない場面が続いている」「同じ子のミスにだけ繰り返し強く反応している」「本人がボールを受けるのを怖がり始めている」。これなら確認できる。「あの子は性格が悪い」と始めると、今度は誰がいつ何を言ったかという証言大会になり、保護者LINEが急に裁判所になる。

「もっと下手な子の気持ちを考えなさい」だけでは、上手い子の不満は消えない

一方で、上手い子だけを悪者にして説教大会を開けば解決するかというと、それも違う。「あなたは上手いんだから我慢してあげなさい」「できない子を助けてあげなさい」。一見きれいだが、本人からすると「本日より選手兼コーチ兼相談員に任命します」と言われたようなものである。小学生に役職を盛りすぎだ。

本人には本人の目標がある。もっと速い展開でやりたい。もっと難しいプレーをしたい。勝ちたい。それ自体は悪くない。高いレベルを求めている子に「みんなに合わせなさい」だけを繰り返せば、今度は本人がチームに合わなくなる。足のサイズが30センチなのに、友情のために25センチの靴を履けと言われても無理なものは無理である。

だから、「下手な子に合わせろ」ではなく、「実力が違う人と同じチームにいる時にどうプレーするかも技術だ」と伝える。自分と同じ速さ、同じ判断、同じ能力の選手だけを集めることはできない。もし全員が完全に同じ動きをしたら、それは強いチームというより、ちょっと怖い集団である。

「もっと上手い子とやりたい」と言うなら、その気持ちも聞けばいい。今の環境で上を目指すのか、より高いレベルの環境を考えるのか。それは検討していい。チームを変えたいと言った瞬間、「今まで一緒に頑張ってきた仲間を捨てるの?」と昼の連続ドラマを始める必要はない。本人は移籍の相談をしているだけで、海外逃亡するわけではない。

大切なのは、「上を目指したい」と「下手な子を雑に扱う」はセット商品ではないということだ。上手くなりたいなら好きなだけ上を目指せばいい。ただし、味方を見下す追加サービスは最初から取り扱っていない。注文されても店側が困る。

親としては面倒だ。「勝ちたい気持ちは大事。でも態度はダメ。もっと上へ行きたいなら考える。でも今いる仲間は雑に扱うな」。条件が多い。携帯電話の料金説明くらいややこしい。ただ、これを「仲良くしなさい」の一言で終わらせても、問題が簡単になったわけではない。親が説明を省略しただけである。

下手な子の親も、すぐに「うちの子がかわいそう」で動かないほうがいい

下手な子の親側も難しい。自分の子にだけパスが来ない。ミスした瞬間、上手い子が露骨に嫌な顔をする。ベンチで何か言われている。これを見ても完全に平常心でいられる親がいたら、たぶん心臓の素材が普通ではない。こちらは子どもの試合を見に来ただけなのに、なぜ精神修行までセットになっているのか。

帰りの車では、「あの子感じ悪くない?」「コーチ何も言わないの?」「上手いからって偉いの?」が始まる。行きは「今日何点取れるかな」だった車内が、帰りには討論番組になる。助手席が解説者、運転席が司会者、後部座席の当事者だけポテトを食べている。肝心の本人が一番通常営業だったりする。

ここで本人より親が先に爆発すると、話がややこしくなる。子ども同士は翌週には普通に話しているのに、親同士だけ三か月冷戦が続くことがある。子どもが「昨日あいつとゲームした」と言っている横で、親だけ駐車場の反対側へ歩いていく。停戦協定が子どもにしか配布されていない。

まず聞くのは本人だ。「嫌だった?」「怖かった?」「いつもそうなの?」「自分ではどう思ってる?」。本人が「別に」「俺もミスしたし」「次取ればいい」と言っているなら、親が突然代理人を名乗って法廷を開く必要はない。頼まれていない弁護士ほど張り切ると怖い。

逆に、「ボールが来るのが怖い」「また怒られる」「あの子と同じ組になりたくない」「練習に行きたくない」となっているなら話は違う。もう競技上の失敗ではなく、人間関係で失敗することを恐れている。そこは大人が見ていい。守るべきなのは「うちの子の名誉」ではなく、普通にボールを触れる状態である。

相手の子を成敗することが目的になると、だいたい話は悪化する。「うちの子を傷つけた」という親の怒りには、不思議な大盛り無料サービスがついている。本人の怒りが並盛りでも、親が受け取った瞬間に特盛になる。なので戦いに行く前に、本人がそもそも注文したのか確認したほうがいい。

親がやることは「仲直りさせる」ことではなく、三つを切り分けることだ

結局、親がやることは、子どもたちを体育館の中央へ並ばせて「はい、握手!」ではない。あれは大人が「解決しました」という気分になるには便利だが、子どもは握手しながら普通に「こいつとは帰ったらしゃべらん」と思っていることがある。握手にそこまで強力な浄化作用はない。

Aは「何に腹を立てているのか」を見る。技術差なのか、練習への姿勢なのか、負けた悔しさなのか、自分だけ頑張っている感覚なのか。ここを間違えると、腹痛の子に目薬を差して「よし、治った」と言っているようなものだ。治っていないし、目までびっくりしている。

Bは「怒りを何に変えているか」を見る。愚痴なら聞けばいい。強い指示なら内容を見る。だが、無視、見下し、仲間外れ、意図的なパス拒否まで行けば止める。「勝利への情熱」と名前を付ければ何でも格好よくなるわけではない。冷蔵庫の奥で一週間忘れていたカレーに「熟成」と書いても、食べる前には一応においを確認したほうがいい。

Cは「一時的な衝突なのか、序列になっているのか」を見る。一回の喧嘩なら、本人たちが処理できることもある。しかし「上手い子は怒っていい」「下手な子は黙って受ける」という役割まで固定されたら、もう競技力の差だけの問題ではない。チームの中に勝手に身分制度ができている。入団申込書にはそんな欄はなかったはずだ。

上手い子には、「下手な子に合わせてお前も下手になれ」と言う必要はない。好きなだけ上手くなればいい。もっと上を目指してもいい。ただ、自分よりできない仲間を雑に扱うことまで「向上心」という箱に入れるな、というだけだ。その箱を巨大化させると、ため息も無視も暴言も全部「僕、勝ちたいんで」で収納できてしまう。

下手な子にも、「何を言われても我慢しろ」と教える必要はない。ミスはしていい。怒られることを避けるためにボールから逃げる必要もない。技術がまだ追いついていないことと、人間として小さくならなければいけないことは別である。シュートが入らないからといって、存在までベンチに下げる必要はない。

そして実力差そのものが大きすぎて、上手い子は毎回イライラし、下手な子は毎回萎縮するなら、「どっちが悪い選手権」を一年間開催するより、そもそも今の環境が双方に合っているのかを考える。全員が同じ場所に残ることだけが正解とは限らない。靴でもチームでも、合っていないものを「せっかく買ったから」で履き続けると、だいたいどこかが痛くなる。

最初の場面に戻る。味方がミスした瞬間、上手い子が両手を広げる。親はそれを見て「態度悪い!」と即座に笛を吹きたくなるが、見るべきなのはその次だ。その手が仲間を押しのけるために使われるのか、それとも「次はここ!」と示すために使われるのか。

上手い子にとって本当に難しい技術は、自分より上手くない仲間が隣にいる時にも、自分の基準を下げず、相手の居場所まで消さないことなのかもしれない。ドリブルより難しい。シュートより難しい。しかもこの技術、体育館やグラウンドを卒業したあとも、かなり長く使う。

会社に入れば、自分より仕事が遅い人は普通にいる。保護者会に行けば、何日たっても返信しない人もいる。家に帰れば、「脱いだ靴下を洗濯かごへ入れる」という基本動作を何年たっても習得しない人間までいる。人生は、自分と同じ能力の人だけを集めて開催される大会ではない。

そこで毎回両手を広げていたら、一生肩のトレーニングになる。

だから、上手い子が下手な子にイライラし始めた時、親が目指すのは「イライラしない子」にすることではない。イライラしても、人を壊さない子にすることだ。

それができたら、かなり上手い。競技以上に。

あなたのチームではどうですか?

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※個人名・チーム名・学校名など、個人や団体を特定できる情報は入力しないでください。

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